deshitabi

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小林一毅 × お茶染め

「お茶」と言えば、まず飲むことを考える。だが、このDESHITABIで、小林一毅にとってはまったく異なる茶の世界を味わうこととなった。東京を拠点に活動するグラフィックデザイナーは、山あいの、高品質の茶の産地である静岡に赴き、お茶染めという文化に向かい合うこととなった。

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滞在期間中、小林はこの形式を15年にわたって開拓し続ける、知識豊かで革新的な鷲巣恭一郎さんという職人のもとで、お茶染めと呼ばれる和染めの世界を探求した。デザインとスケッチから、裁断を経て捺染するまで、小林は、お茶染めを完成させるための一連の作業を体験し、最後に、有機的なモチーフが展開された四種類のタペストリーに昇華させた。

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小林の体験は、静岡市内から少し離れた、木々に囲まれた静かな「駿府の工房 匠宿」という文化施設にて行われた。陶芸、竹工芸、木工などを体験できるスペースが軒を連ね、中庭内を周る木廊下がそれらをゆるやかにつなげていた。

鷲巣さんの指導のもと、静岡の最も知られている特産品である茶葉と、染物を融合させた「お茶染め」を学んだ。この地域に長く培われ豊かに醸成されてきた職人の真髄を今に伝える、茶葉そして和染めである。

型染め工房の五代目である鷲巣さんがお茶を染料として使用したことは革新的であると同時に、地域の天然資源を持続的に活用したいという思いも込められている。

「鳥の声が聞こえたし、水は流れ、たくさんの植物や木々を目にしました。こういった感覚に形を与え、四種類の抽象的なデザインを描いてみました。」

「茶葉を加工したときに残ってしまうものを使用しています。なぜかというと、静岡がお茶を生産しているという点にスポットを当てたいからです。いまでは、高齢化によって多くの茶農家が畑を放棄してしまっているものですから」と鷲巣さんは説明する。

さて、作業の様子に戻ろう。最初に小林は、作品制作のために、着物用の白い反物を裁断した4枚の布を洗い、太陽の下に干して下準備をした。

ここで、ちょっとした数学的な思考が必要になるようだ。小林はその布が下準備の過程で20%縮むことを学んだ。そして、700グラムの素材のためには350グラムの茶葉を要し、染める素材ひとつに対して50倍(つまり35リットル)もの水が必要だということを学んだ。

無事に計算が終わると、大きな鉄製桶に特大の木綿の布の「ティーバッグ」を入れて加熱を始めて、20分ほどかけて煮込まれる間に、ムラが出ないように何度も突っ込んだりして攪拌し続けるのだ。

茶染の準備が完了すると、今度はクリエイティブなインスピレーションが必要になる。自然に足は施設の外へと向かい、静かな森の中を歩き始め、果樹や田んぼのそばを通り過ぎ、周囲の山々にあふれる秋の景色のなかに溶け込んでいった。

小林は時折立ち止まってはノートパッドを開いてスケッチをした。部屋に戻った後に気になったデザインを四つ選んで、方向性を決めた。まとう空気に触れて生まれたデザインは、軽やかにしなやかに弾むような無駄のない抽象的な曲線によって、自然と有機的な形になっていた。

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「あえて綺麗すぎない線であらっぽく切っているんですよ」

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「今回はデザインは山から来たんですよね」と小林は振り返る。「鳥の声が聞こえたし、水は流れ、たくさんの植物や木々を目にしました。こういった感覚に形を与え、四種類の抽象的なデザインを描いてみました。」

お茶の香りがあたりを漂い、残る日々はとんとんと、そして静かに過ぎていった。白い布地がタンクに浸される間、小林は茶色い紙の上で「下図」と呼ばれる最後のデザイン作業に入り、捺染をするために裁断を行った。

「あえて綺麗すぎない線であらっぽく切っているんですよ」と言いながら、自然からだけでなくアンリ・マティスやパウル・クレーの作品にもインスパイアされたことを説明した。

二日目、お茶染めされたテキスタイルが乾ききる前、小林は休憩をとって静岡のいくつかのスポットを訪れた。ひとつが日本平という富士山を眺める丘の上の絶景ポイントとその近くにある茶畑だ。

最終日はDESHITABIの集大成であり、おそらくはもっとも難しい工程である捺染だ。小林のデザインに沿って注意深く切り取られた用紙を染めた布ーこのときは濃い茶色に変化していたがーの上に広げ、チタンの混じった糊が施される。

厚めの糊を置くために使われる木の用具の角度とデザインパターンが切られている方向は、ともに均等に糊を置くために大変重要なポイントだ、と鷲巣さんは言う。

そしてまた、小林もゆっくりと、また丁寧に糊を型に沿わせて置いていった。こうして全工程を終え、テキスタイルは20分間蒸されたあと、水で洗い流され、太陽の下に吊るされた。

結果はどうなったか? きめ細やかな濃茶色の染めを背景に、明るいオレンジ色の四つの自然のモチーフが生き生きとしている。たった一度きりの職人技による豊かで研ぎ澄まされた感覚と、時を感じさせない現代的な意匠とが美しく調和していた。

その一連の体験を思い返しながら、小林は語った。「絵を描くのともまったく違う。グラフィックデザイナーの現場では、仕上がったレイアウトや図案を工房とか職人に託して作ってもらう分業制が普通です。でも、染の型作りから染めまでを一貫して自らの手で行うこと自体が新鮮で、染めの工程で素材が変化していく様子とともに徐々に完成に近づく感覚に都度向き合えたことはとても貴重な経験でした。」

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小林一毅
プロフィール

グラフィックデザイナー。1992年滋賀県彦根市生まれ。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立。東京TDC賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞、Pentawards Silver受賞。
https://www.instagram.com/kobayashi.ikki/

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